ハモルと言うこと

1.音の協和と不協和

音楽における音の協和については、ピタゴラス学派の実験から始まります。2500年も前の話なのです。おどろきですね。そこからピタゴラス音律という概念が形成されています。

ピタゴラスは簡単な一弦の琴を作り、駒を移動させてハモリ(協和)の実験をしたのです。xとyとを同時に弾くのです。

1:1 では同じ音が出ます。これはユニゾンで最も協和します。
1:2 ではオクターブとなります。これも良く協和します。
2:3 では完全5度となります。ドとソです。
3:4 では完全4度です。ドとファです。
4:5 では長3度です。ドとミです。
5:6 では短3度です。ドとミbです。

こんなに簡単な関係の音を出せばハモルというのですから、ハモルことなど簡単なことと思えます。複雑な比の音を出すことが要求されているのではありません。ピタゴラス音律では2:3が主役です。

音の正体は物体の振動が空気中に空気圧の疎密の波動が伝わり、耳の鼓膜が空気圧の波動で振動してわれわれは音を感じるのです。

音の協和については物理学と数学の理論が必要ですが、ここではあなた達が頭が痛くならないように小難しい話はしません。

2.ピタゴラス音律・平均律・純正律

ピタゴラス音律

基音を1つきめて、周波数が(3/2)倍になるように調律します。基音をEbだとすると、Eb1−Bb1−F2−C3−G3−D4−A4−E5−B5−F#6−C#7−G#7となります。5度間隔の飛び飛びの音です。完全5度進行と言うわけです。

5度進行で引き続く7音を取り出してみます。例えばF、C、G、D、A、E、Bを取り出し、これを並べ替えると、C、D、E、F、G、A、Bとなり、ハ長調の7音階となります。引き続く5音、F、C、G、D、Aを取り出して、F、G、A、C、Dと並べ替えるとヘ長調の5音階となります。いわゆる4,7抜き(ヨナ抜き)です。ヨーロッパでは7音階が主流となりましたが、世界各地にはいろいろな音階が使われていたのです。アメリカに奴隷としてつれてこられた奴隷達のアフリカでは5音階です。日本でも雅楽や沖縄の音階は「ヨナ抜き」と言われることはご存知のことと思います。

さて、話を戻して、ピアノの鍵盤12鍵の音が決まったわけですから、あとはオクターブの調律でピアノが調律できます。

@ C長調の音階:C−D−E−G−A−B−C
A D長調の音階:D−E−F#−G−A−B−C#−D
B F長調の音階:F−G−A−Bb−C−D−E−F
C G長調の音階:G−A−B−C−D−E−F#−G
D A長調の音階:A−B−C#−D−E−F#−G#−A
E Bb長調の音階:Bb−C−D−Eb−F−G−A−Bb

は、協和性がすぐれた音程で聞こえて来ます。すべての音が12音の中に存在しているからです。

しかし、Eb長調の音階:Eb−F−G−Ab−Bb−C−D−Eb

でこのピアノを弾くと、Abが生成されていませんから、G#が代用品です。G#はAbより8分の1音高いのです。したがって、音痴の音階に聞こえます。EbとG#、これは気持が悪くなります。ドイツでは「狼音」と呼ばれます。きわめて不快な音程とされています。要するに「調子はずれ」になるのです。

平均律

バッハは平均律で調律されたハプシコードやクラビコードのための作曲をしたといわれます。「平均律クラヴィーア曲集」です。ところが、バッハの時代には平均律は存在しません。"The Well-tempered Chravier"が英文のタイトルですが、日本人が誤訳をしたのです。「平均律」に対応する単語はどこにも無いではありませんか。それでも、この曲集の日本語タイトルが未だに訂正されていないのです。

平均律が一般的なものとなり、調律法も「うなり」をカウントして正確に微妙な調律ができるようになったのは、つい19世紀から20世紀のことなのです。バッハは対位法に適した調律の鍵盤楽器で作曲したのです。

平均律は1オクターブの12個の音の隣合う音の周波数比が、すべて等しくなるように調律するものです。どんなキーの音階を弾いても同じ周波数比になっていますから移調。転調をしても、狼音は起こりません。

じつは、ピタゴラス音律では半音の周波数比が場所によって等しくないのです。

どんなキーの曲でも弾けるのは便利なのですが、協和性を犠牲にしているのです。

弦楽器や一部の管楽器の演奏家は微妙な加減によって微妙な周波数の弾き分けが可能です。ピアノではそれが不可能です。ですから、ピアノコンチェルトなんて耳のいい人には辛いものに聞こえているのかもしれません。曲によって調律がなされる場合もあるようです。

純正律

協和性を重要視した音律に純正律というのがあります。みなさんは主3和音を知っているでしょう。アカペラコーラスをやっている人たちが喜びそうです。

トニカ:ド、ミ、ソ   ●ドミナント:ソ、シ、レ   ●サブドミナント:ファ、ラ、ド

これらの3つの重要な和音が完全に協和するように、周波数比を4:5:6に決めることが可能です。しかし、長音階和音は協和しても短音階和音は協和しないという欠点があります。バイオリン3台で実験して御覧なさい。長音階ハーモニーの「ソシレ」の「レ」を、短音階のハーモニー「レファラ」の「レ」は同じではありません。そのため「レファラ」を鳴らすと感度のよい人は耐えられないほどだと言います。

純正律を信奉する音楽家も少なくありません。ベートーベンは純正律で調律されたピアノで作曲したと言われています。平均律のピアノで演奏してもベートーベンにならないと主張する人もいます。

3.歌手はどうすればよいのだ?

人間の声はピアノと違ってアナログです。連続的に調節がききます。旋律を重視するソロではピタゴラス音律に従い、コーラスで和音を重要視するときは純正律に従うのがよいと言うことになります。ですから、ユニゾンとハモリでは音程が違ってくるのです。これは調律の計算というよりは感覚の問題で、すでに音響心理学の分野です。

歌手は意識するしないに関わらず、心地よい歌を唄う歌手はそうやって歌っているはずです。

コーラスはアカペラにすれば、問題は一掃されるのです。くりGが東京バーバースでアカペラで歌っているわけが理解できるでしょうか?どれだけの人が意識しているかは知りませんが、バーバーショップのエキスパートは生物のDNAに刻み込まれた協和音程で唄っているのです。

しかし、多くの人がピアノの鍵盤を一音、一音叩いて音を覚えるようです。わかGは、ピアノの音で音程をとるのは生理的に好きではありません。旋律の中で、あるいは、ハーモニーの中で音をとりたいという人種です。探ってみて一番気持の高まるところを狙うのです。これが、ピアノの音とは一致しないことを昔から感じていたのです。

同じ音でも、たとえば「レ」の音の場合、「ソ、シ、レ」のハーモニーの場合と「レ、ファ、ラ」のハーモニーとでは微妙に違った音を探っていることに気がつきます。同じレでは汚いのです。長音階と短音階とで違うのです。試して御覧なさい。意識すれば違いに気づきます。

ほとんど完全なピタゴラス音律に従うためには、オクターブに最低53鍵が必要になります。オクターブの53等分がよいというのは、何と古代中国(BC 50頃)で発見されているのです。こんなピアノは物理的に作っても演奏できません。

しかし、旋律やハーモニーによって、自動的に周波数を選択できる電子楽器の設計は不可能ではありません。これを実現するには音楽学はもとより、電子工学、情報科学、知識工学の基礎知識が最低限必要です。ヤマハあたりが作るかもしれません。最新では、ヤマハのHarmony Director 100というキーボードがあります。純正律はもちろん、その他の調律が電子的に可能ですが、自動的に機能するものではありません。ソフト技術がこれを可能にしてくれるような気がします。

ライブ歌手たちが「呑気な父さん」や「呑気なおばさん」に思えてきませんか?じつは、それでいいのです。しかし、合唱団の人達の間では非常な関心事になるのです。

ハモリとは奥が深いもんじゃろ?だから、わかGは、こんなこと考えてはくたびれるのだよ。ここに書いたのは、ほんの玄関先の話です。念のため。

各種の音楽事典が出ています。例えば"dtv-Atlas zur Musik"(角倉一朗監訳「図解音楽事典」白水社)は面白いです。プロになるならお読み下さい。

わかG